大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和31年(行)27号 判決

原告 平和商事有限会社

被告 大牟田市長

主文

被告が昭和三十年七月二十五日さきになした大牟田市常盤町八番地の一宅地七坪九合三勺及び同市築町二十五番地の二宅地八十坪四合三勺に対する仮換地指定九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と変更し、その減坪した三十一坪四合の地域を同市曙町三十三番地の四宅地五十五坪の仮換地として指定した処分が無効であることを確認する。

大牟田市常盤町八番地の一宅地七坪九合三勺及び同市築町二十五番地の二宅地八十坪四合三勺に対する仮換地は前記九十六坪四合六勺であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として「大牟田市常盤町八番地の一宅地七坪九合三勺(以下土地(い)と略称する)及び同市築町二十五番地の二宅地八十坪四合三勺(以下土地(ろ)と略称する)は、もと訴外大橋喜市の所有であつたが、かねて被告から特別都市計画法に基く換地予定地として右二筆の土地に対し一括して同所附近の九十六坪四合六勺の土地が指定されていた。しかして昭和三十年四月一日施行された土地区画整理法及びその関係法令により、特別都市計画法は廃止され被告の施行する土地区画整理は土地区画整理法第三条第四項の規定による事業となり従前の換地予定地の指定は同法による仮換地の指定とみなされることとなつた。原告会社は福岡地方裁判所大牟田支部昭和二十九年(ケ)第一二五号不動産競売事件において前記土地(い)(ろ)を競落し、昭和三十年六月二十七日競落許可決定を受け、ついで同年七月二十日その所有権移転登記を受けた。しかるに同月二十五日被告は、訴外大橋喜市等の願出により右土地に対する仮換地の指定を分割修正すると称して、被告の所管する換地調書及び図面に、土地(い)(ろ)に対する仮換地九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と変更すると共に同市曙町三十三番地の四宅地五十坪(以下土地(に)と略称する)に対する仮換地として右の減坪分三十一坪四合が指定された旨の記載をした。しかしながら被告の右処分は次の事由により明白且つ重大な瑕疵を有するので無効である。すなわち、(一)右処分は仮換地の指定の分割修正というけれどもその実質は仮換地指定の変更に外ならない。しかして仮換地の指定は被指定者又はその承継人をして仮換地の使用収益権を取得せしめると共に従前の土地についての使用収益権を失わせる効果を生じさせるものであるから、土地区画整理事業施行者において勝手にこれを変更し得べきものではない。しかるに右処分は従前の土地所有者たる原告会社の同意もなくその権利を無視して勝手になした違法のものである。のみならず、原告会社に対し右処分につき通知をしていない違法がある。(二)右処分当時土地区画整理法に基く土地区画整理審議会は未だ設けられず従前の土地区画整理委員会が存続していたが、被告は右処分をなすに当つて右委員会の意見を聞かねばならないのに拘らずこれを聞いていない違法がある。よつて右処分の無効確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

被告の本案前の抗弁に対し「被告が関係権利者の願出により仮換地の分割修正及び図面上の画地区分の処理をしたものである以上、それは仮換地の指定を変更する行政処分に外ならない。被告は右処理について施行者である被告において特別の意思決定をしたものではないと主張し、本件のいわゆる分割修正等の処分は市の吏員が勝手になした単なる事実行為にすぎず施行者である被告は何ら関知していないと主張するもののようであるが、そうであるとすればそこに何らの行政処分も存しないものであつて法律上何ら効果のない勝手な帳簿や図面の記載という外はないが、かような記載がなされている以上、仮換地の指定の変更がなされたような外観を呈しているのであるから、原告は被告のいわゆる分割修正が無効であること、原告所有の土地(い)(ろ)に対する仮換地が依然として九十六坪四合六勺であることの確認を求める利益を有するものであつて被告の抗弁は理由がない。」と述べ、

被告の本案に関する答弁に対し、「大牟田特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程が適法に告示施行されたことを争う。仮にこれが適法に施行されたとしても同規程第十九条は原告の本訴請求とは何ら関係がない。というのは同条第二項は『前項の届出をしないために生じた損害については損害賠償の請求をすることができない』とあるだけであるのに対し、原告は被告のいわゆる分割修正が前述の理由により当然無効でありその無効の確認を訴求するにすぎず何ら損害賠償の請求をしているわけではないからである。」と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として「本件処分は被告が関係権利者である訴外大橋喜市、中村スエノ両名の願出により本件仮換地の分割修正及び図面上の区分修正の処理をしたものであつて被告において特別の意思決定をしたものではなく行政処分ではないから本訴請求はその目的を欠くものである。仮にそうでなく行政処分であるとしても、本訴は行政事件訴訟特例法第二条、第五条に違背し、土地区画整理法第百二十七条による訴願を経ないものであり、しかも処分の日から一年以上を経過してなされたものである。従つていずれにしても本訴は不適法として却下を免れない。」と述べ、

次に本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「土地(い)(ろ)がもと訴外大橋喜市の所有であつたこと、被告が右土地につき一括して同所附近に九十六坪四合六勺の換地予定地を指定したこと、昭和三十年四月一日施行の土地区画整理法及びその関係法令により右土地区画整理及び換地予定地指定がそれぞれ同法に基く事業及び仮換地の指定となつたこと、原告会社が原告主張の日時右土地を競落しその所有権移転登記を受けたこと、同年七月二十五日訴外大橋喜市等の願出により右土地に対する仮換地の分割修正をなし、換地調書及び図面に原告主張のように右土地につき変更記入をしたこと、右分割修正につき、原告にその旨の通知をしていないこと及び土地区画整理委員会の意見を聞かなかつたことは認めるが、その余の事実は争う。本件処分が変更処分であるとしてもその経過は次のとおりであつて何ら違法はない。すなわち土地(い)(ろ)及び大牟田市曙町三十三番地の一宅地百二十七坪三合六勺(以下土地(は)と略称する)はいずれも訴外大橋喜市の所有で土地(い)(ろ)については前記のように九十六坪四合六勺の仮換地が土地(は)については六十七坪七合一勺の仮換地が指定されていたところ、同人は昭和二十八年十二月二十二日土地(は)を訴外中村スエノに売却し、その後昭和三十年七月二十五日中村スエノより土地(は)を同番地宅地七十二坪三合六勺と同所三十三番地の四宅地五十五坪(土地(に))に分筆した上大橋喜市と共に土地(い)(ろ)に対する仮換地九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と、土地(は)の仮換地六十七坪七合一勺を分筆後の土地(は)(七十二坪三合六勺に減少している)の仮換地として六十七坪七合一勺及び土地(に)の仮換地として三十一坪四合と分割して貰いたい旨の願出があつたので、換地調書及び土地台帳を調査照合の上、土地(い)(ろ)(は)の所有者が右大橋喜市及び中村スエノであることを確認し、右両名の願出のとおり換地調書及び図面の分割修正及び画地区分の記載をしたものであつて、当時原告に土地(い)(ろ)の所有権が移転していたことは後日了知したのである。しかして被告施行の土地区画整理事業は既に清算の段階にあり、換地の組合せ修正は換地清算の円滑な運営のため必要であり、特に関係権利者の願出による修正については土地区画整理審議会(本件においては土地区画整理委員会)の意見を聞くことは必ずしも必要ではない。かえつて、大牟田特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十九条によれば、右規程施行後土地建物等に関する権利について異動を生じたときは当事者双方連署又は連署を得ることができないときはその事由を記載した書面を添附の上遅滞なく施行者にその旨届出なければならないのに拘らず原告はこれを履行しなかつたのである。よつて本件処分は適法であつて原告の請求は失当である。」と述べた。

(立証省略)

理由

先ず被告の本案前の抗弁について判断する。

大牟田市常盤町八番地の一宅地七坪九合三勺(土地(い))及び同市築町二十五番地の二宅地八十坪四合二勺(土地(ろ))が訴外大橋喜市の所有であつたこと、右土地について一括し被告から特別都市計画法に基き同所附近に九十六坪四合六勺の換地予定地が指定されていたこと、昭和三十年四月一日施行の土地区画整理法及びその関係法令により特別都市計画法は廃止され被告の施行する土地区画整理は土地区画整理法第三条第四項の規定による事業となり右換地予定地の指定は同法による仮換地の指定とみなされることになつたこと、並びに被告が昭和三十年七月二十五日前記大橋喜市等の願出により仮換地の分割修正をし換地調書及び図面に土地(い)(ろ)に対する仮換地九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と変更するとともに大牟田市曙町三十三番地の四宅地五十五坪(土地(に))に対する仮換地として右減坪分三十一坪四合が指定された旨の記載をしたことは当事者間に争いがない。被告は右の変更が関係権利者である大橋喜市中村スエノ両名の願出によりしたものであつて被告において特別の意思決定をしたものではないから行政処分ではないと主張する。右の趣旨は原告主張のように被告の下僚職員が勝手にした単なる事実行為であつて施行者である被告は何ら関知しないところであるという意味ではないことは弁論の全趣旨により明らかなところでたゞ関係権利者である大橋喜市と中村スエノが被告に対し被告から指定を受けている仮換地の分割を願出たのでその仮換地区分を願出のとおりにしただけで被告の意思によつて前記のような処理をしたものではないというのであるが、そもそも仮換地指定処分は従前の宅地について権原に基き使用収益し得る者に対して従前の宅地についての使用収益を停止させ、仮換地上にこれと同じ使用収益の権能を付与する処分でありその権限は一に施行者に存することは明らかであつて、これが変更は従前の指定の一部の取消又は全部を取消し新たな指定をなすことを意味するから仮換地の指定と同質の処分であることはいうまでもない。たゞその変更が従前の仮換地の位置を動かすことなく従前の仮換地の形状又は面積に軽微な変更を加える場合においては、仮換地指定の変更処分というより指定の修正ということができるとしてもいずれにせよ右のような処分は被指定者の権利義務に影響を及ぼす可能性のある施行者のなす法律行為であることは明らかであつて、行政処分と解するのが相当である。

次に被告は本訴には行政事件訴訟特例法第二条及び第五条の訴願前置主義並に出訴期間の制限に関する規定の適用があると主張するけれども、本訴は被告がなした仮換地指定の修正処分の無効確認を求める訴であるところ、右訴訟においては行政処分の取消変更を求める訴と異り訴願前置及び出訴期間の制限に関する同法第二条及び第五条の適用はないと解するのが相当である。従つて被告の主張する本案前の抗弁はいずれも採用しない。

よつて進んで本案について判断する。

被告が昭和三十年七月二十五日土地(い)(ろ)に対する仮換地の指定につき換地調書及び図面に右土地に対するさきになした仮換地指定九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と変更すると共に右の減坪分三十一坪四合が土地(に)に対する仮換地として指定された旨の記載をしたことは前記認定のとおりであり成立に争いのない乙第一号証並びに弁論の全趣旨を綜合すると、大橋喜市は土地(い)(ろ)の外大牟田市曙町三十三番地の一宅地百二十七坪三合六勺(土地(は))を所有しており土地(は)については仮換地六十七坪七合一勺が指定されていたこと、大橋喜市は昭和二十八年十二月二十二日土地(は)を中村スエノに売却し、その後昭和三十年七月二十五日右中村スエノが土地(は)を同番地宅地七十二坪三合六勺と同所三十三番地の四宅地五十五坪に分筆した上、大橋喜市及び中村スエノから被告に対し土地(い)(ろ)に対する仮換地九十六坪四合六勺を六十五坪六勺と変更し、土地(は)の仮換地六十七坪七合一勺を分筆に応じ分筆後の土地(は)(すなわち大牟田市曙町三十三番地の一宅地七十二坪三合六勺)の仮換地として六十七坪七合一勺、土地(に)対する仮換地として右減坪分三十一坪四合を指定して貰いたい旨の願出があり、被告は右願出のとおり仮換地の指定の変更処分(被告のいわゆる修正処分)をしたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。なお前記認定の事実に徴するときは右処分は従前の仮換地の指定に対して軽微な変更を加えたものとはいいえず、従つて修正処分ではなく変更処分であると認めるのが相当である。ところで、仮換地指定の変更の手続については土地区画整理法に何ら規定がないが仮換地の変更は前認定のように仮換地の指定と同質のものであるから、その手続については同法第九十八条の規定の類推適用があるものと解すべく、その変更に当つては同条第三項により従前の宅地の所有者の同意を受けなければならず、又同条第四項によりその変更は従前の宅地の所有者に対してその旨の通知をすることによつてこれをしなければならない。しかして原告が福岡地方裁判所大牟田支部昭和二十九年(ケ)第一二五号不動産競売事件において土地(い)(ろ)を競落し、昭和三十年六月二十七日競落許可決定を受け、ついで同年七月二十日その所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いがないので、右土地(い)(ろ)に関する限り被告は所有者でない者の申出により従前の宅地の所有者である原告の同意を得ずして前記のような仮換地変更処分をし、しかもその使用収益の範囲は六十五坪六勺に減縮されているのであるから原告の既得の権益を侵害しておりこのように変更処分をしなければならないような公益上の必要があると認められる特段の状況も明らかでない。被告は原告が土地(い)(ろ)の所有権を取得していたことは本件処分後判明したものであつて、本件処分をなすに際しては換地調書及び土地台帳を調査照合の上土地(い)(ろ)(は)の所有者が前記大橋喜市及び中村スエノであることを確認したと主張するが、被告としては少くとも不動産登記簿によりその所有権者を確認すべきであつてそのなすべき調査を懈怠したものといわなければならない。又被告は大牟田特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十九条により原告において被告に対し土地(い)(ろ)の所有権の取得を届出なければならないのに拘らず右届出をしていないと主張するがもともと右施行規程は特別都市計画法第五条により大牟田市長が特別都市計画事業として施行する土地区画整理について定められたものであるが、土地区画整理法施行法第五条第二項により土地区画整理法により定められた施行規程とみなされ、その効力を存続しているものであるところ土地区画整理法第八十五条によれば所有権者は施行者に対する権利の申告義務者から特に除外されているのであるからこれが施行規程である前記施行規程第十九条にいう申告義務者の中に所有権者は当然含まれていないもので原告が同条に基く届出をしなかつたからといつて、施行者において原告の所有権を存在しないものとみて仮換地の指定又はその変更をなし得ないものというべきである。なお仮換地指定変更処分が原告に通知されなかつたことは当事者間に争いがない。してみれば被告のなした本件仮換地指定変更処分は違法であつて、その瑕疵は重大且つ明白であるから本件処分はその余の点を判断するまでもなく無効のものというべく、土地(い)(ろ)の仮換地は依然として九十六坪四合六勺であるから右処分の無効並びに土地(い)(ろ)の仮換地が九十六坪四合六勺であることの確認を求める原告の請求はその確認を求める利益のあるのは勿論であり理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 鹿島重夫 生田謙二 丹野達)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例